前回の「消費税インボイス制度のポイント解説」では適格請求書等保存方式
(インボイス制度)の全体像について説明をしました。
今回は適格請求書(インボイス)を発行する場合の注意点から見ていきます。
適格請求書発行事業者は、取引先から要求された場合には適格請求書(イン
ボイス)を交付する義務があります。また、交付した適格請求書(インボイス)
の記載内容に誤りがあった時には、改めて内容を修正した適格請求書(インボ
イス)を交付しなければなりません。
ただし、先に発行した適格請求書(インボイス)を修正するものであることを
明らかにした場合には、修正事項のみを明示した書類を発行することが認めら
れます。
適格請求書(インボイス)は領収書等であることから書面で発行することにな
りますが、書面に代えて電磁的記録(電子インボイス)で発行することもできま
す。電磁的記録の提供方法としては①電子メールによる電子データの提供、②
DVD、USBメモリ等の記録媒体を利用した提供、③EDI取引による電子デー
タの提供、④WEBサイトを通じた電子データの提供等の方法があります。
これらの適格請求書(インボイス)は、買手だけでなく売手も交付した領収書
等の写しの保存義務があります。また、電磁的記録で提供した場合には、その
電磁的記録を保存することになります。
返還・値引き・割戻し、売上割引、販売奨励金、協同組合が組合員に支払う
事業分量配当金など「売上に係る対価の返還(売上としてもらったお金の一部
を返すこと)」をする場合には、「適格返還請求書」の交付が義務付けられて
います。
適格返還請求書には①適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号、
②売上に係る対価の返還等を行う取引年月日、③元々の売上があった取引年月
日、④取引内容(軽減税率の対象品目がある旨など)、⑤税率毎に区分して合計
した対価の額(税抜又は税込)及び適用税率、⑥税区分毎の消費税額等又は適用
税率(両方の記載をしても可)、これらの記載をする必要があります。
適格返還請求書は、適格請求書(インボイス)の中に含めて一緒に記載する事
もできますし、取引金額と消費税額について相殺した後の金額で適格請求書
(インボイス)を発行することも認められています。
取引をした時に代金を口座振替等で支払う場合には、領収書などが発行され
ることはあまりありません。しかし、適格請求書等保存方式(インボイス制度)
では、このような取引でも適格請求書(インボイス)の保存が必要となります。
適格請求書(インボイス)は、一定期間の取引についてまとめて交付すること
が認められています。なので、賃貸借契約等の場合には一定期間の賃料の支払
いについて一括で適格請求書(インボイス)の交付を受け、それを保存すること
で対応することもできます。
また、適格請求書(インボイス)の必須記載事項は一つの書類で全て満たす必
要はないことから、契約書等の一連の書類とともに支払いが記帳されている通
帳などを保存しておけば仕入税額控除の要件を満たすこともできます。
適格請求書(インボイス)の記載事項
①適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
②取引年月日
③取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
④税率毎に区分して合計した対価の額(税抜又は税込)及び適用税率
⑤税率毎に区分した消費税額等
⑥書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称
令和3年9月現在では、取引の実態を踏まえて、①税込の支払額が30,000円
未満の場合には、請求書等の保存をしなくても法定事項が記載された帳簿の保
存のみで仕入税額控除が受けられています。
また、②税込の支払額が30,000円以上であっても請求書等の交付を受けな
かったことについてやむを得ない理由がある場合には、請求書等の保存をし
なくても、法定事項を記載した帳簿にやむを得ない理由及び相手方の住所又は
所在地を記載すれば仕入税額控除を受けられています。
これらの特例的取り扱いは適格請求書(インボイス)の保存が義務付けられる
令和5年10月1日以降は廃止されることになっています。
もっとも、以下の取引については令和5年10月1日以降も適格請求書(インボ
イス)の保存をしなくても一定の事項が記載された帳簿の保存のみで仕入税額
控除が受けられます。
①公共交通機関による旅客の運送(3万円未満)
②入場券等が使用の際に回収されるもの
③再生資源及び再生部品の購入(購入者の棚卸資産に該当するものに限る)
④自動販売機及び自動サービス機からの商品・サービスの購入(3万円未満)
⑤郵便切手類を対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに投函されるもの
に限る)
⑥従業員に支給する通常必要と認められる出張旅費、日当及び通勤手当等
⑦古物営業者による古物の購入※
⑧質屋による質物の購入※
⑨宅地建物取引業者による建物の購入※
※⑦~⑨については相手方が適格請求書発行事業者でないことが必要です。
簡易課税制度は、中小事業者の納税事務負担に配慮するために、仕入税額控
除額を売上に係る消費税額を基礎にして計算するものです。
つまり、簡易課税制度の適用を受けていると仕入などで払った消費税の額は
関係なくなり、売上と一緒にもらった消費税に「みなし仕入れ率」というもの
を掛けて算出した額をもらった消費税から引いて残った額を消費税として納付
することになります。
このように、簡易課税制度においては仕入にかかる消費税を考慮しないこと
から請求書等の保存は仕入税額控除の要件になっていません。
この要件は適格請求書等保存方式(インボイス制度)が開始されたとしても変
わることはないので、簡易課税制度の適用を受けていると適格請求書(インボ
イス)の保存は必要ないということになります。
簡易課税制度は基準期間の課税売上高(消費税をもらった売上)が5,000万円
以下の場合に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出することで適用を受け
ることができます。ただし、一度適用を受けた場合には、2年間継続した後で
なければ適用を取りやめることができません。
また、簡易課税制度は課税仕入(消費税を払った仕入)が少ない場合には、仕
入税額控除で引ける額が増えることから消費税の納付額を抑えることができて
有利に働きます。しかし、払った消費税がもらった消費税より多い場合には、
本来であれば払いすぎている分の消費税を還付してもらえるのですが、簡易課
税制度の適用を受けていると払った消費税は関係ないので消費税を納付しなけ
ればならないという事態が起こります。このように、簡易課税制度にはメリッ
ト・デメリットがあることから適用を受ける場合は慎重に検討する必要があり
ます。