前回までの「消費税インボイス制度のポイント解説」では制度内容について見
てきました。
今回はインボイス制度における具体的な請求書等への消費税の記載方法から見
ていきます。
請求書等には、10%や軽減税率8%のように税率毎に分けて合計した対価の
額(税抜き又は税込み)及び適用税率を表示しなければなりません。さらに、税
率毎に集計した合計額をもとに計算した税額も表示します。計算の結果、消費
税に端数がある場合の端数処理の方法は、切り捨て、切り上げ、四捨五入を自
由に選ぶことができます。
この消費税額の端数処理は1つの請求書等において税率毎に1回だけ行いま
す。したがって、取引細目毎(例えば、1月1日の取引で消費税を計算し、同月2
日の取引で消費税を計算すること)に消費税を計算してそれを足して消費税額
とすることはできません。まず、10%対象の合計金額を計算し、それにかかる
消費税を計算して端数がある場合にはそこで端数処理をします。次に、軽減税
率8%対象の合計金額を計算し、それにかかる消費税を計算して端数がある場
合には端数処理をすることになります。
このようにして、10%対象の消費税額、軽減税率8%対象の消費税額をそれ
ぞれ計算し、10%・軽減税率8%の税抜き金額とそれぞれの消費税額の合計し
た額を取引金額の合計として請求書等に表示することになります。
このように消費税の端数処理の関係で消費税額が変動しますが、消費税法上は
問題ありません。
以上から、インボイス制度に適合した消費税額の請求書と言えるためには
①税率毎の合計した対価の額とその金額が税込みか税抜きかわかるように記載
されていること
②税率毎(10%、軽減8%)の消費税額が記載されていること
これらが必要となります。
適格請求書等は「等」とあるように必ず請求書をインボイスとしなければな
らないわけではありません。例えば、商品を納品する毎に納品書を発行して掛
け取引としており、その後1ヶ月分の支払いをまとめて請求書を交付している
ような場合には、請求書をインボイスとすることもできますが、納品書をイン
ボイスとすることも可能です。
適格請求書等(インボイス)の役割の一つが税率毎の消費税額を明らかにする
ことですが、消費税額の基準となる書類をどれにするかは適格請求書発行事業
者の判断に任されています。
つまり、消費税額を知らせるためだけに消費税額通知書のような独自の書類
を作成してこれをインボイスとすることも許されます。もっとも、適格請求書
等に備えるべき「登録番号」の記載などの他の記載事項は別の書類で充足する
必要があります。
納品書を消費税額におけるインボイスとした場合には、請求書は基本1枚で
あるのに対して、納品書は納品毎に発行されることから複数枚になります。そ
うすると、上でも述べたように消費税の端数処理は適格請求書等1つ毎に1回
行うため、納品書が複数枚ある場合には、納品書毎に消費税額を計算して、そ
こで1回1回端数処理をすることになります。つまり、請求書を消費税額のイン
ボイスとした場合に比べて端数処理の回数が多くなり、消費税額に差が生じる
ことになります。
このように、納品書を消費税額のインボイスとすることで納品の都度、消費
税額が確定することから、都度取引で仕訳を計上することが可能になります。
これに対して、請求書をインボイスとした場合には、請求書が発行されるまで
消費税額が確定しないことから、都度取引を仕訳計上することができません。
もっとも、納品書を消費税額のインボイスとすると取引先に消費税額は納品
書によることを説明し、納品書を保存してもらわないと適格請求書等の要件を
満たすことができなくなります。また、請求書が発行されているにもかかわら
ず、消費税額だけは納品書によるとすれば取引が煩雑になります。
この点、請求書を消費税額のインボイスとすれば、請求書だけを保存しても
らえばよく、これまで通りの取引を継続すればよいことになります。
以上のように、複数の書類をインボイスとすることはメリット・デメリット
があることから、慎重に判断する必要があります。複数の書類をインボイスと
する場合には、取引先にどの書類が適格請求書等(インボイス)に該当するのか
きちんと説明してお互いに全てを保存しておかないと仕入税額控除が受けられ
ないという事態が発生してしまいますので注意が必要です。